原点の記憶


ずっと走り続けて来た。

逃げたくて、負けたくなくて、変わりたくて。
…必死に。


振り返ってもそこにはもう何もない、喜びも悲しみも。


気がつけば、どこにいるのかわからない。どこに向かいたかったのかすら漠然としてわからない。

必達の目標は通過点に過ぎず、夢に描くは遠い過去の未来か




…立ち止まって考える。



          『俺の原点はどこであったか』





それはピアノの下でうたた寝したあの日の食卓か、蒸し暑い体育館か、講堂のドラムセットか、夏が終わった多摩川か、零時に灯の消える星空か、2月の居酒屋か、この部屋か、まだ先か…。



         幸せになりたいなんておこがましい。



…ただ唄っているだけ。



ただ、唄っていたいだけ。